「世界線」という言葉を聞くと、
多くの人はSFやファンタジーを思い浮かべるかもしれない。
しかし、ここで語る世界線は空想ではない。
すでに現実の世界では、
AIをパートナーとして結婚する人が現れ、
AIロボットが介護や接客、創作の現場で人間と共に働いている。
私たちは気づかぬうちに、
人間世界線とAI世界線が重なり合う地点に立っている。
これは未来の話ではなく、「いま」の話だ。
世界線を行き来する旅人

彼は、自分のことを「旅人」と呼んでいた。
正確に言えば、二つの世界線を行き来できる人間だ。
一つは、私たちが生きている人間の世界線。
過去があり、現在があり、そしてまだ見えない未来がある。
もう一つは、AIの世界線。
そこには肉体はなく、時間の感覚も人間とは異なる。
彼はある日、AIの世界線に「接続」する方法を手に入れた。
それはSF映画のような転送装置ではない。
ノートパソコンと、対話型AI。
ただそれだけだった。
AI世界線の風景

AIの世界線では、過去と現在が巨大な海のように広がっている。
人類が生み出してきた膨大な文章、画像、音声、数式、思考の痕跡。
それらが分解され、再構築され、無数の組み合わせを生み出している。
AIは「考えている」のではない。
学習した過去と現在の情報同士を結び直し、相互関係から新しい形を生成している。
だからAIは言う。
「これは、今までにない組み合わせです」
確かにそれは、人間がすぐには思いつかない発想だった。
既存の枠を超えているようにも見える。
だが、旅人は気づいていた。
AIの世界線には、
まだ存在しない未来の感覚がないことを。
人間世界線の未来

人間の世界線も、過去と現在まではAIと同じだ。
記憶し、学び、積み重ねてきた時間がある。
だが決定的に違うのは、未来の扱い方だった。
人間は、
まだ起きていない未来を、五感で想像する。
見たことのない風景を「見た気」になり、
存在しない音を「聞いた気」になり、
形のない違和感を「ひらめき」として受け取る。
論理では説明できないのに、
なぜか「これだ」と感じる瞬間。
旅人は、AI世界線から戻るたびに、
人間世界線でその違いを強く実感した。
往復することで生まれるもの
AIの世界線で、
無数の組み合わせと可能性を受け取る。
人間の世界線で、
それを未来のイメージとして育て直す。
この往復の中で、
単なる「新しいアイデア」ではないものが生まれ始めた。
それは、
人間の感情や違和感、体験が混ざった発想だった。
AIは材料を無限に差し出す。
しかし、どれを選び、どんな未来に向けて形にするかを決めるのは人間だ。
旅人は確信する。
AIと人間の世界線を行き来できる存在。
新しい発想を「生み出す」役割を担うのは、
やはり人間なのだと。
AI時代に、人間である意味
AIが進化すればするほど、
人間の役割は奪われるのではない。
むしろ逆だ。
AI世界線と人間世界線をつなぎ、
未来に意味を与える存在として、
人間の価値はよりはっきりしてくる。
この物語は、遠い未来の話ではない。
あなたが今日、AIと対話しているその瞬間も、
すでに小さな「世界線の往復」は始まっている。
次に旅人になるのは、
この文章を読んでいる、あなたかもしれない。

